「渡来船-とらいせん-」


 「カーっ!今日もついてないゼーっ!!」 (--y)

ここ最近の俺はついていなかった・・・何をするにしても裏目にモノゴトが進んでいくのである。
会社では俺が3ヶ月がかりで練り上げたプロジェクトがボツになり、一コ下の後輩のプロジェクトが採用になった。
挙句の果てにその後輩の補佐役として傘下に加わるハメになった・・・。

 プライベートでも彼女とささいな事で口喧嘩をして、いまは口すら聞いてもらえない毎日でもある・・・。
俺は思い出すたびに鬱憤と苛立ちが、自分の体を支配していく。

 「やってられねーよ!!」
今日、何度目かの一人愚痴をこぼすと、またビールを浴びるように飲み干していった。


 ここ東京は下北沢の一角にある俺のいきつけのお店BAR「渡来船」。
 下北沢はまるで上野のアメ横みたいな駅前商店街とフツーの家が静かに並ぶ住宅街である。
その間にくいこむように、ぽつぽつとお店を出しているアンティークショップや古着屋さんもある。
夕方は買い物カゴにサンダルばきのオバサンとオシャレをした女の子たちが、
なんの不思議もなく同じ道を行き交っている面白い町でもある。

そんな雰囲気が好きになり、俺は東北の田舎を捨てこの街を選んで出てきたのである。
そして「夢」を求めて生活をするようになって、はや4年の月日が流れたのだった。


 「カズ君、もうお酒はそのへんにしといたら〜?これ以上飲んだら、明日の仕事ができなくなるよ・・・。」
 女船長さん(マスター)こと みゆきが心配そうに声をかけてきてくれた。
 
「まだまだ、夜はながいんだお〜!これから〜これから〜!!」
 そしてまたジョッキにはいったビールをいっきに飲み干すのでした。
 「きゃー、いい飲みっぷり〜!」
 船員(クルー)の女の子が歓声をあげてあおりはじめた。
 いい気分になった俺はその声に答えるために立ち上がろうとしたが、一瞬目の前がくらくなってバランスをくずしてしまった。
 「ほら〜、いわんこっちゃない〜!」
あきれかえった みゆきが床に座り込んでいる俺を手助けするようにおこしてくれた。

 彼女は身長が170センチくらいある大柄な女性であり、モデルになってもおかしくない美貌の持ち主でもあった。
 渡来船は俺が田舎から出てきて誰も知り合いがいなかった頃見つけたお店で、
最初は寂しさを紛らわすために通っていたのだが・・・!?

・・そう、俺がここに出入りする最大の理由は女船長や船員の制服が可愛いのだ!!(苦笑)
それは海軍をイメージしたセーラー服であるが、現役女子高生でも見劣りするくらいの「清楚」な感じが、
またこのお店をいやらしく感じさせずにいた。
 店内も15〜16世紀の渡来船をイメージされた造りでできており、
その手の人達も楽しめるような雰囲気であり、また落ち着きがあってよかった。

 「ほら、今日はかえりなさいな。お代はこんどでいいから〜。 今タクシーよんであげるから、待ってなさいね〜。」
昔はヤンキーだった女船長といえど、意外と年下思いのよい姉御でもある。
 「いいよ!夜風にあたりながらゆっくり帰るから・・・それぢゃ・・・おやすみ・・・」
案外素直にひきさがった俺は、たよりなげな足取りでお店を後にした。
 「また来てねー!」
船員(クルー)の女の子が笑顔で手を振っていた。初秋ということもあり、夜はいくぶん涼しさを感じることができた。
なんと心地よい風が俺のそばを通り抜けていく。

「はうー、気持ち悪るぅー!調子のって飲みすぎたかも〜・・・」
ふらふらと千鳥足で歩いては、道端にうずくまる俺に誰かが声をかけてきた。
 「お兄さん、大丈夫ですか?」
ふと見上げると、そこには一人の女性が心配そうにこちらを見つめていた。

 (唖然・・・。)

 (もしかして・・・吸血鬼さん!?)
俺は言葉にでないほど心底驚いたのだ!!
その女性の格好は、なっ、なんと、いまどきではめずらしいマント姿をしていたのだ!!

 「うっ、美しい・・・」(うっとり)

彼女の歳は俺より少し年下であろう。体格はやや小柄で細身。
艶やかな美白色の肌はあくまできめ細かく、豊かな黒い髪は水流のような直毛だった。
美貌はというとかなりの美女ではあるには違いないのだが、
多くの男達はあえて敬遠するだろう近づきがたさがどことなく漂っていた。
黒い瞳に秘められた光は強靭な意志を表しているが、心優しい朗らかさを感じることができた。

それに彼女をすっぽり包み込むサテンのマントもインパクトがあった。
全体が光沢のある漆黒であるためか、最初見たときは体が闇と同化して顔だけが空中に浮いているように思えた・・・。

この間、彼女に魅了された時間にしてはほんの数秒だったろうけど、俺にとっては永遠に感じられた・・・。
 
「うふっ・・・美しいって、何が?」
「いいや、あなたのことだけど・・・」
「苦しそうにしていたから、声をかけてあげたのだけど・・・。あーあ、心配して損しちゃったなぁ!」

 (途方にくれる俺・・・)

 「だってー、そんな冗談いえるんですもん!きゃはは!」
屈託のない笑い声とともに彼女が歩き出すと、マントがひらひらと風になびいた。
 「ねー、どうしてそんなマントを羽織っているの?」
俺はすんなりと心に湧き出た疑問を、素直に彼女にぶつけてみた。
 「ああ、このマントねー!」
数歩前を歩いていた彼女が俺に振り返ると、マントの裾をつまみながら「くるっ」っと一回転して見せてくれた。

 「ほら、素敵なマントでしょう!?きゃはは!!これはあたしの大事な商売道具なのよ・・・」
 俺は羽織ったマントの赤い裏地にくぎづけになりながらも、秋風に運ばれてきたのだろう彼女の香水のバラのかほりを感じ取った。
 「えっ、商売道具って?」
 「ん、あたし占い師なの!ま、OLさんに制服があるように、あたしの場合はマントが制服なわけなのよ」
 「ふーん。でもなんでこんな真夜中にそのマントを着てるわけなの?」

 そう質問をした俺に、彼女はもういちどマントの裾をつかむと両手をかるくひろげた格好のまま会釈した。
   (どきっ!)
一瞬、俺の体に稲妻らしき閃光がはしった。
 
「きゃはは、それは・・・ひ・み・つ。てへっ!!」
彼女は俺をからかうように舌を出してみせた。

「じゃお兄さん、気をつけて帰ってね
 若い女の子には注意して帰らないと、痛い目にあうわよ!」
「ん、どういうこと?」
若い女の子に注意しろとは・・・。
「きゃはは!」

 俺はもう一度彼女に声をかけようとしたのだが、既に彼女は闇にまぎれてみえなかった・・・。
後に残った彼女の笑い声と、バラの残り香だけが、俺の頭の中に心地よい刺激となって響きわたった・・・。
そして、俺はそのまま視界と意識がぼやけていった・・・。


国立病院−こくりつびょういん−


AM0:20   渡来船店内
「船長ォ〜、あたし小田急の終電に間に合わせなくっちゃいけないんで
お先に失礼いたしま〜す!」
「はぁ〜い、ご苦労さまでした。
気をつけてお帰りなさい!
明日は美樹ちゃんのOFFだから、彼氏くんとデート?」
「ヤだぁ〜、そんなことゼッタイないですよォ〜!
からかわないで下さいよォ〜、船長ォったらぁ〜!
あはは〜」

女船長(マスター)の みゆきは、最後まで残って仕事をしてくれていた
船員(クルー)の一人 美樹のまんざらでもない返答に苦笑いした。

「それじゃあ、お疲れさまでしたぁ〜」
鼻歌まじりにお店を出て行く 美樹であった。(笑)
「いいわね〜若いって!
それにしてもコレはいったい・・・はぁー!(--;)」

月末ということもあり、事務所の机には書類が山のように積まれていた。
それを眺めながら、 みゆきは大きなため息をついた。
「明日までに全部できるのかしら・・・
・・・・。(涙)」



お店に一本の電話が掛かってきた。
チリリーン、チリリーン
「はい、渡来船です。本日の営業時間は終了・・・はい、そうです。
えッ、美樹ちゃんが!?
はい、わかりました。すぐに出かけます。」

それは警察からの電話で、美樹が怪我をして救急車で病院に運ばれた!
との連絡だったのです・・・。


AM2:00  国立病院
真夜中の病院という場所がこんなにも気持ちが悪いところだったなんて、
今まで気づきさえしなかったわ。
みゆきは病院の夜間通用口のある裏口のドアから中に入った。
中に入った瞬間、つーんと漂う病院独特の消毒液臭さを感じながら待合室へ急いだ。

警察から連絡を受けてすぐ、お店を閉めてでてきた みゆきの格好は
お店の制服であるセーラー服に薄手の黒いロングコートという姿であった。
お店にいるときはこのセーラー服が誇らしく感じ気持ちがいいのだが、
さすがに外に出るとなると みゆきでも恥ずかしいものを感じるのだった。
それで みゆきはいつもお気に入りのロングコートが離せないのである。(笑)

待合室では一人の警察官が医師と話をしていた。
「こんばんは。わたしは渡来船の者ですが・・・。」
「あッ、こんばんは。お待ちしておりました。」
年のころは初老の域に達しそうな感じの白髪まじりの警察官が申し訳なさそうに答えた。

「それで、美樹ちゃんの容態はどうなのでしょうか?」
それを聞いた白衣の医師が答えた。
「はい、軽い貧血をおこしたようで、道端に倒れたようです。
倒れた際に少々外傷を負ったようですが、手当てをしましたので大丈夫です。」
「外傷!?どこを怪我したんでしょうか?」
「首筋に2箇所ほどの切り傷がありました。後々。痕は残らないほどです。」
「救急車で搬送されたと聞いたから、大きな事故か事件にでも巻き込まれたのかと思いましたよ
・・・ほッ!!」

みゆきは美樹の容態がたいしたことないと聞いたとたん、
安心した為か体から力が抜けてしゃがみこんでしまった。
そして・・・
昔の悪い癖がついている為か、みゆきがしゃがみこんだ姿は、
ヤンキ−座りとなってしまった!!(爆)

警察官と医師はいきなりの みゆきの格好に思わず顔を見合すと苦笑いをしてしまった。
「はッ!? 
失礼しました!!」
2人の視線を感じた みゆきは頬を赤らめながら謝罪した。
「いいえ、いいんですよ。」

警察官の男性が気にしながら答えた。
「ところで・・・」
「ところで・・・?どうしたのでしょうか?」
「はい、事件せいは低いと思うのですが気になることがあるんです。
美樹さんが倒れていたのを発見して通報してくださった方が、
普通ではなかったと現場にかけつけた救急隊員が話していたのですよ!」
「普通ではない!?
どういうことでしょうか?」
「通報して下さった方というのが、黒いマント姿の女性で
いかにもバンパイア風に見えたらしいのです。」
「そしてその女性が美樹さんの傷口を手で押さえていたのですが、
救急隊員の一人が手助けして、お礼を述べようとしたところ・・・いつの間にか消えたように
いなくなったとのことです。」
「いまどき黒いサテンのマントを羽織った女性も珍しいけど、
忽然と消えてしまうなんて・・・いないですよね!!」


AM9:00  退院
「ほんとお世話になりました〜」
ぺこりと頭を下げた 美樹は、自分が起こしたじけんがあたかも他人事のように
ケロっとしたままの笑顔で答えた。

結局のところ みゆきは家には帰らないで 美樹の隣のベットで朝まで付き添っていたのだった。
「はぁー!」
一睡もできなかった みゆきはくまのできた眠い目を擦りながら、大きなため息をついた。
「なんか、あたしの方が病人になりそうよ・・・(涙)」
「船長ォ〜、ほんとすみませ〜ん!
今日の借りは必ずおかえししますぅ〜!
こんど美味しいお料理のあるお店を、紹介しますよォ〜!」
「あッ、ヤバい・・・こんな時間になってるぅ〜。
それでは、今度こそ失礼しま〜す!」
「はいはい!」
なんか、どーでもいい気分だわ!!

ロングコートのポケットからバージニア・スリムをとりだすと、
なれた手つきで火をつけた。
「ふぅーッ」
タバコの煙を胸いっぱい吸い込むと、なんとも心地よい気分になれる。
タバコのかほりがあたしを癒してくれるのだ!


AM10:00  回顧
「黒マントの女性にバンパイアか・・・」
あたしは2週間前に同じ話を聞かされたのを思い出していた。
お店の常連客の一人「カズ君」のことである。
カズ君があたしのお店で飲んだ帰りに「黒マントの女の子」に出会った後、
意識を失ったこと。
次の日、カズ君が目を覚ましたらちゃんと自分のベットで寝ていたということ。
そして朝、ひげを剃るのに鏡に写したら首筋に2箇所覚えもしない切り傷があったということ・・・。

タバコの灰が床に落ちそうになるのを見て、あわてて灰皿にタバコをもみ消した。

今回の 美樹ちゃんのことも考えると、あたしの知らない所で、何かが動いている・・・。
そんなふうにしか思えてならなかった!
まッ、今なやんだ所で解決するわけでもないか〜!
「ぐぅ〜」
あら、ヤだ。
恥ずかしいことに、おなかが鳴ってしまった。
(思わず回りを見渡す みゆきであった。(笑))

「さてと!」
あたしは遅い朝食をとるため、病院をはなれてセールスマンやOLが行き交う
人ごみの中に紛れ込んでいった・・・。


「バンパイアっ娘」

吸血−(1)

{ ホテルのダブルの部屋で女は待っていた。
 前から教えてもらっていた番号の部屋へと直接向かい、招き入れられたのだ。
 ホテルの優雅な部屋で待っていたのは、年の頃三十代半ばの豊艶なる美女だった。
 透き通るような色白の肌に黒目がちの大きな瞳、口は少し大きめで肉厚のある唇、
 腰にまで届く栗色の髪、そして肉付きのよい艶かしい姿態。

 俺は黒いドレスの胸元から半分出ている女のその豊かな乳房に目を釘付けになりながら、
 動けないままでいた。

 (そう視線を釘付けて、微妙な距離で煽(あお)ってあげる・・・)

 「君のために、注文しておいたの。高級な赤ワインよ。
  今夜はゆっくりと楽しみましょうね。・・・思った通りのコでよかったわ。
  うふふ。」

 女はそう言って俺にグラスを渡し、ワインを注いだ。
 俺はグラスに注がれる血のように赤いワインをぼんやりと眺めていた。

 「君と私の素敵な出会いに、乾杯!」

 俺は女の笑顔につられて、にこやかに微笑みながらワインを口にした。
  女の胸は白く豊かで、お尻もボリュームがあった。
 でもウエストは締まっていて、いわば理想的なグラマーだった。
 俺はそんな事を考えていたら・・・ふいに睡魔に襲われ、意識が遠のくのを感じた。

  しッ、しまった!
 不覚にもワインには睡眠薬が入っていたようだ・・・。

 「うふふ。」
 女は妖しい笑みを浮かべ、満足そうに眺めていたのだった。  }



再開

「いらっしゃいませー」
元気のよいクルーの女の子の声が、店内に響きわたった。
「お客様は3名様ですかー?」
「はーい!」
お店に入ってきたのは、シンプルな濃紺のブレザーに緑色系のタータンのミニスカートを履いた
お嬢様学校で有名な女子高生3人組みでした。
「お席のほうにご案内します」

しかし女の子たちは雑談に夢中らしく人の話を聞いてないようにみえた。
でも案内係のクルーの後にしっかりとついていくところがまた凄い。(笑い)

「でさー、どーなったの?バイト先のアイツとは、仲良くなったの?」
「えへッ」
「!」
「えへッ、えへえへえへ」
「なーに、気持ち悪うー」
「何か進展があったんだね!きゃはは」
「こないだ告ってねー」

(んー、若い娘は元気だよなぁー!)
と思いながら、俺はなにげなくその娘達の後姿を目で追った。

今日は会社の仕事が久々に早く終わったのだった。
それでうちに帰ったところで何をする訳でもなく暇なものだから、
「渡来船」で楽しんで・・・いや、一息ついていたのだった。(苦笑)

ん!?
なんだろう・・・、黒髪をポニーテールにしてる女の子・・・。
俺は3人のうちのその娘に目を奪われていたのだ。
普通に仕事とかしていたら、特に気を留めるような事はなかったんだろーけど、今は違った。
(暇だからか?あはは、違うな!)
何か他の子と違って彼女だけが雰囲気がちがうのだ!

あれ?
その時、その娘もだれかの視線を感じ取ったんだろうか?
ふと後ろを振り向いて・・。

「あ”ッ!!?」
思わず2人して顔を見合わせてしまった。

「この前の、酔っ払いのカズさんじゃ−ん!(爆)」
「この前の、バンパイアッ娘!(爆*2)」

世間ってば、狭いものです・・・。(--;)

でもなぜ彼女が俺の名前を知っているのか・・・!?
しかしこの時点では、俺は気づきもしなかった・・・。


吸血−(2)

{   気がつくと、ホテルの室内は真っ暗闇だった。
俺はホテルのベットに縛り付けられていたのだ。
両手両足はギチギチに縛られ、ベットの隅にある足にくくりつけられてある。
身動き1つできない状態だった。

(い・・一体、な・・・何が起こったんだ!?)
俺は恐怖に脅えながら、闇の中、目を凝らした。
すると黒いサテンのマントを羽織った女が立っていたのだ!
女は妖しく光る赤い目をし、肉厚のある唇の上からは2本の犬歯がのびて鮮やかに光っていた。

あッ!
思わず叫びそうになったが、あまりの恐怖で声にならなかった。

裸に黒いマント姿の女は、よく似合っていて、前にもまして美しかった。
よく見ると女の手にはナイフを持っていたのだ!

「うふふ」
女は悪魔的な微笑をうかべながら、俺に近づいてきた。
1歩、1歩、あるくたびにマントがひらひらと靡き、裏地の赤色が鮮やかに写った。

「うふふ・・・、怖いの坊や?可愛そうに、坊やのあそこ、縮みきっちゃてるわね。
うふふ・・・でも大丈夫、またすぐに大きくなるわよ、さっきみたいに。
ワインを飲む前は,もうたっていたんでしょう?
うふふ・・・可愛いのね」
女はギラギラと狂気的に光る目でそう言うと、ナイフを俺の頬に乗せて、すッーっと動かした。
俺は頬が一瞬ひんやりしたと思ったが、次に刺すような痛みを感じ、切れたことがわかった。

女は脅えきった表情の俺を見ながら、血のついたナイフに舌舐りすると、黒マントの裾をつかんで両手を広げてみせた。

(疼(うず)いてる・・・見た目はシャイな坊やを挑発したら・・・
火をつけたそれを邪険にあしらい、焦らしてあげる・・・)

「うふふ・・・夜は長いのよ、ゆっくり楽しみましょう」   }



バンパイアっ娘

彼女の名前は 水無月 藍 (みなづき あい)
お嬢様の学校で有名な私立女子高にかよう2年生の女の子。
(たぶん17歳なんだけど、彼女も自分の歳を把握していないので謎なのです)

あれから俺はアイちゃんのお友達からいろんな質問を、いや詰問(きつもん)に近い状態で問いただされたのだ。
「年はいくつ〜?なにしてるの〜?アイとどんな関係〜?」
はぅ〜!(T_T)
でも彼女達にとっては、ただの好奇心を晴らすべく話を聞きたかったのだろうけど・・・。
ようやく解放されたのは、彼女達の1人がバイトに行かなくてはいけない時間になって、タイムアウトとなったのが
俺にしてみれば天の恵みというものでした。
あぅ〜!

「お友達は、バイトがあるっていって2人して帰っていったけど、アイちゃんは大丈夫なの?」
「はい、ぜんぜんOKです!きゃはは!」

(あはッ!ってことは、今日はアイちゃんとレッツ・オールナイトでーいッ!・・・あーして、こーして(笑))

さっきまで女友達にさんざん弄ばれてヘトヘトになっているにも関わらず、厳禁な俺である。(爆)

「お久しぶり〜!」
船長(マスター)の みゆきがアイに声をかけてきたのだった。
「はい、みゆきさんお久しぶりでーす。きゃはは!」

えッ!?
なんなんだ、この展開は・・・。
なぜに、みゆきさんがこのバンパイアっ娘のアイちゃんのことを知っているんだ!?
俺はいまいち状況を把握することができず、頭がパニくっていた。

「カズ君、アイちゃんを呼んだのはあたしなの。
実は2人にやってもらいたいことがあってね・・・」
アイちゃんはさっきと打って変わって真剣なまなざしで、みゆきを見た。

「状況は深刻かもしれない・・・」
みゆきは唇をかみしめるように、そうつぶやいた。

「ええ。私も薄々感じていました。
私の占いでも、おなじ結果がでてばかりなんです・・・」

えッ!?
俺はこの強引な展開に、ますます頭が混乱するばかりであった。(どかーん!)



「永遠の愛」


吸血−(3)

(お前の欲しそうな視線・・・着飾った会話なんていらない。
ほうら、ゆっくり追い詰めて・・・首筋にあつい吐息をかけてあげる。)

「うふふ・・・黒百合の巣へようこそ。うふふ・・・お前はわたしの大事な獲物。
これからお前を食べて、あげる。うふふ」
そういうと女は俺のいつのまにか最大限ほどに膨れ上がった下半身のモノに跨り、
騎乗で腰を振った。
「はぁ・・、はぁぁ。はぅぅっ・・!」
偽りの愛と女悪魔との流血という生まれて始めての出来事に、俺は初めは唖然としたが、
やがて屈辱に顔に血がのぼった。
俺は顔を振って抵抗しようとしたが、女は露わな下半身でそれを封じ込めてしまった。
「うふふ・・・もっと抵抗してごらんなさい。蜘蛛の巣に捕われた蝶のようにもがくお前の姿、哀れよね。
うふふ・・・苦痛に満ちたその虚ろな目。素敵よ・・・うふふ・・・」
女は前後に腰を振りながらも、黒マントの裾をつかんで両手を広げたまま俺に覆い被さってきた。

女のマントに包み込まれた感触は心地よく、咲き乱れた花びらの甘い匂いが妖しく誘っていた・・・。
「はぁ・・はぁ・・!」
マントの中で息苦しくなった俺はもがいたが、女はそうすると益々面白がってキツく締め上げるのだった。
息苦しさと快感とが入れ交じり合い、俺の脳をダイレクトに刺激する。
「の・・のどが・・渇く・・うっ・・!」
脳内モルヒネのベーターエンドルフィンが中枢神経を深く抉る・・・。
「ほらほら、こうされたかったんでしょう?てこずらせるんじゃないわよ、坊や。
わたしに犯されたかったクセに」
そういうと女はナイフで傷ついた俺の頬の血を、ねっとりした舌で舐めとった。


地下室


俺と藍そして みゆきの3人は「渡来船」の地下室にいた。
地下室はお店の従業員でもめったに出入りをしない場所でもある。
俺は初めて みゆきにこの部屋へ案内されたのだが、入ったとたん驚いてしまった。
部屋の中は異様な雰囲気の空間だったからだ・・・。
それは中世ヨーロッパのお城の一室をここに移してきた風にも感じられた。
だがしかし、部屋の中央にはドラキュラがベット代わりとして愛用している大きな棺が置いてあったのである。

「これから私が話すことは、絶対誰にも口外しないでほしいの・・・わかったかな、カズ君?」
「はいです」
抵抗してもよかったのだけど、みゆきの前ではなぜか神妙になってしまう俺であった。
「うん、いいコね。
立ち話もなんだから、そこらへんに適当に座って。
あっ、アイちゃん、上のお店に行ってコーヒーを3つとってきて頂戴。」
「はーい!」
そういうと みゆきはスカートのポケットからタバコ(バージニア・スリム)を取り出すと
慣れた手つきで火をつけた。
「ふぅーッ!・・・・・くしゅん(笑)」
どきッ!

ちょっとビックリした俺である。
「あッ、ごめん!あたしねー緊張するとくしゃみが出ちゃうのよ・・・びっくりした?」
みゆきは真剣な眼差しで顔を覗き込んだ。

カウントダウン・3・2・1。
「あはははッ!(爆笑)」
俺と みゆきは涙が出るほど腹を抱えて笑ったのだった。
「あー俺もかなり緊張しちゃってました。でも・・・」
「ううん、いいの!ありがとねカズ君」
そういうとまた2人で笑うのでした。
「みゆきさん、コーヒー持って来ましたよー」
2人して大笑いしている姿を見た藍は、さっきととって変わった姿に訝しげに見つめるのでした。(苦笑)


それから数時間、俺は夢のような話を・・・いや悪夢を聞かされるのだった!
一、この世にバンパイアが存在して、人々を襲ってること。
一、みゆきはそのバンパイアを粛清する「バンパイア・ハンター」であること。
一、アイちゃんはバンパイアの血を受け継いでいる「ハーフ・バンパイア」でもあり、
「バンパイア・ハンター」の性質を兼ね備えた特別稀に見る存在であること。
(バンパイアという悪ではあるが、正義の味方でもあるッ!!!)

俺が一番驚いたのは、藍に俺が吸血されていたという事実である!
しかし みゆきにバンパイアを粛清するには今回はどうしても必要な事といわれ、しぶしぶ了解したのでした。
内心では、可愛い藍に吸血されたことを喜んでいたのだが・・・。(爆)
その時、俺のななめ後ろにいた藍が俺を睨んでいたのは、いうまでもない。

その後、今回のバンパイアを退治する計画を みゆきに聞かされるのだが、
俺がバンパイアのおとりやくになるとは・・・。(T_T)

そして、いよいよ作戦の計画が実行されるのでした・・・幸運を!


永遠の愛


「こ・・・こッ、殺して・・ください!・・あッ、あっー!」
俺の体は勝手に痴れ狂った夢遊病者のように、もっともっとと前立腺の快楽を求めるのでした。

女は真っ赤な口をあけると長く伸びた犬歯で俺の体に傷をつけ、ときには長い舌で首筋を
唾液まみれにするのでした。

「うふふ・・・発情して狂ってるのね、坊や。叫び声をあげる隙もないほど荒々しいキスをして
 もう二度と「殺して・・」なんて言えない様にしてあげる」
女のマントから漂う腐りかけの果実のような甘く妖しい香りの罠に導かれて、俺は邪悪な牙に
自らの肉体を捧げる・・・。
肉体を棄てて精神をも殺したその果てには、何があるのだろうか?
血で血を洗う幻覚が俺を取り殺すようにやってくる・・・。

その時だった!
俺の神経いや脳の中から女の子の声が響き渡った。
「もう少しよ、がんばって・・・!」
それは藍がじかに俺の思念に語りかけてきたのだった。
「誰だっ!!」
女はひとつ苦々しげに舌を打つと、いきなり食事を中断して俺の上から降りた。
ここまで来て途中でやめられたのでは、俺もたまらない。
肉体は既に痴れ狂っている。
思わず悲鳴じみた喘ぎを漏らしたが、女は無情にもそれを鼻で嘲笑い、マントを体に覆い包んだ。
「こんばんわ、吸血鬼さん。あたしを覚えてるかしら?」
ホテルの部屋のドアから白いもやがすーッっと消え、表れでたのが藍であった。
藍は素早くドアのロックを外すと、黒百合に向かって身構えた。
「サンキュウー、アイ!」
ドアから みゆきが中に入ってきたと同時に、聖水の入った小瓶を黒百合にめがけて投げた!

「ふんッ、そんなもの!」
黒百合は体を捻ってかわそうとしたが・・・。
「何ッ!」
体がいうことをきかなかった。
パリンっと小瓶が割れるとともに、女バンパイアの全身に聖水が降り注いだ!
「ぎゃあー!あつい−ッ!!」

「甘いわね!吸血鬼さん。そのコの生き血を吸った時点であなたは私に捕らわれたも同然だったのよ!
それに気づかなかったあなたが、いけないのよ!」
「くッ、くそー!」
黒百合の体はいうこと きかないらしく、力で体がふるふると震えていた。
「彼の体を私が吸血してあげたの。だからあなたが吸った彼の血は、微量ながらもあたしの
血が混ざっていたわけよ。
 それがあなたの運のつきだったのよ・・・。おとなしくなさいな、黒百合さん・・・。」
黒百合は藍を睨みつけながら、唾を吐いて最大限の抵抗をした!
「アイッ!黒百合の羽織っている黒マントがバンパイアの正体よぉ!
すぐにそいつからマントを奪ってあげなさいッ!!」
「やッ、やめろーッ!!」
黒百合は大地から響くようなうめき声をあげたのだった。


戦いの果てに


「ふぅーッ、みんなお疲れさま!」
みゆきはタバコを口にくわえながら、みんなに声をかけた。
「はい、お疲れさまです。きゃはは!」
藍はいつもの明るい女子高生に戻っている。
そんな中、蚊の鳴くような声が下の方から聞こえてきた。
「あうぅ〜、助けて〜立てましぇ〜ん!ぐすん!」
俺は3日も寝ていないような体が芯まで鉛につかった感覚で、ヘトヘトになっていた。
「きゃははッ!なにそのカズ君の顔〜!おめめにでっかいクマできていて、まるで「たれぱんだ」
さのものよぉ〜!」
藍がみゆきの顔を覗き込んだが、みゆきは「はぁー!」っとため息をついてやれやれというポーズをとってみせた。
「ほらッ、私が癒してあげる!」
そういうと藍は俺の前にしゃがみこんだ。
「私の胸に顔をあづけてごらんなさい・・・」
俺は藍の豊満な胸の谷間に顔を押し付けた・・・。
そして藍は自分のマントで俺を優しく包み込むのだった。
マントの中はあたたかく甘いバラのかをりが漂っていた。
(ああッ・・心地いい、懐かしく切ない気分・・・。)
自然に身体から疲れが引いていき、心が和んだ。

「はーい、サービスタイムはここまででーす!
あとでお金を請求するから覚悟なさーい!
マダ嫁入り、前の大事な体なんだからさー、きゃはは!」
むッ!
俺はちょっと気分を害したが、藍のおかげで体が動けるようになったので
まーいいか!と妥協してしまった。(笑)

「さーて、事件も解決したことだし、おなかすいたから焼肉でも食べにいかない?」
ロングコートの汚れを振り払いながら みゆきが言った。
「さんせー!あッ、でも私はニンニク入りキムチは苦手だから、それ抜きでお願いしまーす!」
「はいはい!(苦笑)」

3人は何もなかったように、ホテルを後にしたのでした・・・。

おわり