月吟


紘宮社

清浄な白い庭

それより白い、こがねの光

ここに降る光はしろく、そして光に重みが

いえ、光がこの指に掬え(すくえ)そう

夜具を抜け出し、ここにまで来て見た

雲ひとつない、夜の空

冬の気配がもう、夜気に満ちている

笛の音

先ほど暖かなまどろみのなかから自分を呼んだ笛の音がまだ聞こえる

るる、ゅる、るる
るぃ、るぃ、るぃ ぃい、ぃん、るい、るい

嫋々(じょうじょう)と、啾々(しゅうしゅう)と

笛の主、この音の主には影がなく

ただ、音が、そのままそこに姿をなしているかのよう

『紘子様…』
そう、思うことすら、笛の主を、笛の音を汚してしまいそうで

ぃん、ぃん、るぃるい、いんぃん…

金色の光

笛の音に、自分も金の色に、笛の音に化して、そのまま天に昇って消えそうで

けれど

けれど

笛の音は天まで昇らず、地上に満ちて
そして、天から降りた月の光も、天に帰る事はならず、ただ地にわだかまる

だから

だから

笛の音の主を自分は背中から抱きしめてしまっていた
いや、ほとんど取りすがっている

「沙耶…」
振り返らず、笛の音の人は静かに自分の名を呼んだ

「紘子様、紘子様、わたしを、いえ、人間を、人をお許しください」

なぜそんな言葉が出たのか、それすら判らずに

「沙耶、貴女がわたしの最後の巫女になるのねぇ」

金の光と、笛の音に濡れたそんな夜

これはそんな夜の話

だれも見ていない、そんな夜の奏(しらべ)の話