「ミーナの活躍 一章」


「ミーナ、そろそろ行くよ」
「はーい、今行きまーす!」
そう言うとミーナはリビングに掛けてあるマントを取りに行った。
ミーナの外出時の必需品である・・・

人間になったミーナと暮らし始めて1年が経っていた。
人間になったと言っても。術が使えなくなった事が大きく。
多少はヴァンパイア時代の習性が残っている様だった。
外出時にはマントが必需品で、太陽は相変わらず苦手だった。
先日はうっかり太陽光に当たってしまい、半日寝込んでしまったし、
にんにくも臭いがするだけで、羽も無いのに跳んで逃げるし、

その割に十字架は平気みたいで、携帯のストラップにつけているし・・・
(う〜ん、ヴァンパイアの個人差なんだろうか・・・)

「こんばんわ〜」
「いらっしゃい、どうぞ・・・」
今晩もミーナの友達が遊びに来ていた。
ヴァンパイアや魔女の友達などが遊びに来ていた。
今日は魔女の友達らしい。
「こちら、魔女のローラさんよ」
「いらっしゃい、ゆっくりして下さいね。」
「どうも初めまして、ローラです・・・・」
・・・・?・・・・・
何故かローラは僕を見詰めたままだった。
「ダメよローラ、私の大事な人なんだから」
「分かっているわよ・・・でも残念・・鍋で煮込んだら美味しそうな人なのに・・・」

僕を人として見ていたのではなく、食材として見ていた様だ・・・
ミーナと一緒でなかったら、食べられていたかも・・・ちょっと怖くなった・・・
ミーナと共にリビングに入ったローラは、
羽織っていたマントを脱ぎハンガーに掛け始めた。
ヴァンパイア・魔女の友達が多い様で、みんな大きなマントを羽織ってくるので、
リビングの高い位置にマント専用のハンガー掛けを取り付けた。
数人が遊びに来た時に、何枚もの大きなマントが並ぶと壮観だった
僕はコーヒーをリビングに運ぶと、ソファーに腰掛けて二人の話を聞き始めた。
さすがに向こうの世界の事はチンプンカンプンなので、
いつも僕は聞き役になっていた。
今日も暫くききやくになっていると
「そうそう、ミーナ、知っている?一気吸血鬼が復活したらしい事。」
「えっ、本当なの?・・・イヤな吸血鬼が復活したわね・・・」
「気をつけた方が良いわよ、特にダーリンなんか純人間だから」
「家になんか来ないと思うけど・・・・」
「念の為よ、気をつけるに越した事は無いから」
「そうね・・・そうするわ・・・」
ミーナは今までに見た事もない様な、心配そうな顔をしていた・・・・


「ミーナの活躍 二章」


一気吸血・・・
ミーナの話によると、人の血を一滴残らず吸い尽くすヴァンパイアで、
もしも途中までの吸血でも、吸われた人間はヴァンパイアになり、
一気吸血に精神・肉体共に支配されてしまうらしい。
今までは向こうの世界で封印されていたらしいが、
何かの拍子に封印が解けてしまって復活したようだ。
一日一咬み3ccのミーナとはえらい違いみたいだ・・・・

そんな話を聞いた数日後、外出先から仕事場に戻る途中、
公園の前で黒ずくめの服装をした女性とぶつかってしまった。
「す、すみません、ちょっと急いでいたもので、ごめんなさい」
「いいえ、私の方は大丈夫ですから気になさらないで下さい」
女性は笑顔で挨拶すると、歩き始めていた。
女性を少し見送ると、僕も仕事場へと歩き始めた。
・・・今夜は決まりね・・・・
そんな彼女の囁きを聞くこともなく・・・


その日、仕事を終えて帰宅すると、魔女のローラが遊びに来ていた。
「いらっしゃい」
「お邪魔しています」
ミーナが作った夕食を食べ始めたが、どうも食欲が少なかった。
「どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫だよ、ただ、ちょっと疲れ気味なのかもしれないかな、
今日はちょっと早めに寝るよ」
「じゃあ、私も早めに・・」
「ミーナはいいよ、ローラさんも遊びに来ているし、ゆっくり話していたら良いよ」
「ありがと、ダーリンのそう言う優しいところが好きよ・・・」
「僕もだよ」
僕はほほを赤らめているミーナにキスをすると、浴室へと向かった。

軽くシャワーを浴び、パジャマに着替えて寝室へと入っていった。
僕は冷房のスイッチを切ると、窓を開けてベットへもぐり込んだ。
うとうととし始めた頃、僕は重みを感じた。
・・・ミーナが来たかな・・・
僕がゆっくりと目を開けると、黒く大きなマントを着ているミーナがいた。

ミーナを抱きしめようと手を伸ばそうとするが体が動かない!
・・・えっ、どうしたんだ・・・・
暗さに目が慣れてきて、再びミーナの顔を見るが、
そこにいたのはミーナではなかった・・・・


「ミーナの活躍 三章」


「ふふ、気が付いたわね」
彼女は僕が驚いているのを楽しむかの様に
「誰だ、って思っているのかしら」
そう言いながら彼女は僕の布団を剥ぎ取っていった。
「また会ったのに、そんな顔しないでよ」
・・・彼女と会ったことがある?・・・・
僕は必死に思い出そうとした
「今日の昼間に会ったばかりよ・・・」
・・・昼間?・・・まさか公園でぶつかった女性・・・・
・・・でも、なんで彼女がここに?・・・・
「思い出したみたいね、ぶつかった時に貴方に香りをつけたのよ、
私だけが分かる香りをね、折角の獲物ですもの・・・」
まさか、一気吸血!・・・
僕は何とか身体を動かそうとするが、全く言う事を聞かなかった。
「ふふ、楽にしなさい・・・ゆっくり吸血してあげるから・・・」
彼女はマントを大きく広げると、ゆっくりと僕に被さってきた。
マントはまるでいきているかの様に僕の身体を包み始めた。
「うふふ、美味しそうね、ゆっくり味わってあげるわ」
彼女はゆっくりと僕の首筋に口をあて、静かに吸血し始めた。
ミーナ!!!!!・・・
声にならない叫びをあげると、僕の意識は次第に薄れていった・・・・


「だ、だれ!」
寝室のドアが開くと、ミーナとローラが入ってきた。

「邪魔はさせないわよ!」
一気吸血は口から血を滴らせながら呪文を唱えた。
「きゃ!」
次の瞬間、ミーナとローラは壁まで吹き飛ばされていた。
「いたたたっ・・・」
ミーナは何とか起きあがったが、ローラは気を失ってしまっていた。
・・・一気吸血は強すぎるわね・・・でも、どうにかしないと・・・
・・・一気吸血も、元の私と同じ吸血鬼のはず・・・
・・・ならば、私がダメなものなら・・・
ミーナは身体の痛みを我慢しながらキッチンへと走り出し、
冷蔵庫の扉を開けると、中を掻き回しはじめた。
「どこ?!こんな時に!」
殆どの物を出してしまうと、目的の物は奥の方にあった。
何重にもラップに包まれて・・・
「な、なんで・・・こんなに・・臭いのかしら・・・」

ミーナは涙目になりながらラップを取り始めた。
中からは白く小さい、干からび始めていたニンニクが出てきた。
・・・ダーリン、今、助けるからね!・・・
ミーナは意を決すると、ニンニクを掴み寝室へと走り出した。
ドタドタ・・・バタンッ
「コレでも喰らえ!一気吸血!!!」
ミーナは一気吸血に、力の限りニンニクを投げつけた!
一気吸血は慌てる事なく、右手を挙げてニンニクを受け止めた。
「ふ〜ん、にんにくね〜」
一気吸血は右手のニンニクを見ながら、余裕の笑みを浮かべていた。
「あれっ、どうして!・・・」
唖然として見ているミーナに、今度は一気吸血がニンニクを投げ返してきた。
「きゃっ〜〜〜〜」
ニンニクはミーナを僅かに逸れ、壁にぶつかった。
辺りにはニンニクの臭いが漂い始め、ミーナは殆ど半泣き状態だった。



「ミーナの活躍 四章」


「どうすれば良いの?・・・・」
半泣き状態のミーナをよそに、一気吸血は再び吸血を始めた。
・・・このままじゃダーリンが・・・・
無力な自分を恨めしく思い始めた時、携帯が鳴った。
ミーナは携帯を取り出すと、
「ラーメンを3つ、注文したいんですが・・」

「こんな時に間違えないで!」
ミーナは間違え電話を切ると、一気吸血に携帯を投げつけた。
一気吸血は、またか、と言う表情をしながら、右手を挙げて、
携帯を受け止めようとしていた。
一気吸血は余裕で携帯を受け止めると、
「また、懲りもせずに、こんな物を投げつけ・・・えっ?!・・・・
ぎゃっーーーーーー!」
一気吸血は叫び声をあげはじめた。
「へっ?・・・な、なに?・・・・」

いきなり苦しみ始めた一気吸血を、ミーナはただ見ているしかなかった。
一気吸血は身動きしなくなり、やがて風に舞う砂の様に徐々に消え始めた。
やがて一気吸血の身体は完全に無くなり、居た場所には携帯が残っていた。
ミーナはゆっくりと近寄り、携帯を拾い上げた。
「そっか!これだったんだ!」
ミーナの持っている携帯では、ストラップに付いている十字架が光っていた。
「って、感心している場合じゃないわ!」
ミーナは携帯を放り出すと、一気吸血による吸血の被害を調べ始めた。
幸い半分ほどの吸血しかされていなかったが、吸血鬼になてしまう事は必至だった。

「どうすればいいの?・・・・ダーリンが吸血鬼になっちゃう・・・」


「ミーナ、一気吸血は?」
気を失っていたローラが起きあがり、尋ねてきた。
ミーナはローラが気を失っていた間の出来事を話し、
「このままじゃ、ダーリンが・・・・」
ミーナは泣き始めてしまった。

「泣かないでミーナ、一つだけ方法があるわ」
「ほ、本当に?」
「ええ、ただミーナが一気吸血になってしまうかもしれないの・・・
一気吸血になったら、封印されてしまうから・・・
もう、彼とは会えないかもしれないし・・・」
「そんな・・・でも、ダーリンは?」
「大丈夫よ、直ぐに元に戻るから」
「・・・ダーリンが元に戻るなら・・・・ローラ、お願い!」
「良いのね?ミーナ・・・」
「うん、ダーリンの為にもお願い」
ローラはミーナに黒く大きなマントを羽織らせると、呪文を唱え始めた。


「ミーナの活躍 五章」

ローラが呪文を唱え終えると、煙と共に小さな物が現れた。
見た目は玩具店で売っていそうな、ドラキュラの牙だった。
「ミーナ、これを使って彼の中の一気吸血の残り血を吸い出すの。
一気吸血の血がミーナの身体の中に入るから、
作用によっては、ミーナが一気吸血になってしまうかもしれないの・・・」
・・・一気吸血になってしまうかもしれない・・・
・・・でも、ダーリンが助かるのなら・・・・
ミーナは覚悟を決めた様に、ローラに近づき牙を受け取った。
牙を歯に被せると、元来の歯に合わせる様に変形し始め、
瞬く間に元から生えている歯の様に見えてきた。
ミーナはマントを大きく広げ、身体を被い、微かに残る吸血の痕に
口を当てて、静かに吸血を始めた。


・・・ダーリンが助かるなら・・・・
吸血を終えたミーナは静かに首筋から離れていった。
「終わったわ、ローラ・・・」
「それじゃあ、検査してみるわね」
ローラは指を鳴らし血液検査セットを出した。
中から注射器を取り出すと、ミーナの腕に刺していった。
ローラが採血を始めると、ミーナはじっと見ながら
「やっぱ吸血する方が私には向いているみたい・・・」

規定量を採血すると、ローラは何種類かの薬を混入し始めた。
間もなく血は赤から青、白と次々と色を変え始めた。
やがて変色もなくなり、再び赤に戻っていた。
「こっ、これは・・・・こんな事って・・・」
検査の結果を見ていたローラは、絶句していた。
「ど、どうなの?・・・」
「それがね・・・」
「そ、それが・・・」
「ミーナの吸血種族の血なの・・・」
「それって・・・もしかして、元の吸血娘に戻ったってこと?・・・・」
「そうみたいなのよ・・・」
「どういう事なのかしら・・・・あっ、そうだ、マニュアル・・・」
ミーナは押入れからマニュアルを取り出すと、
一気吸血などに関することを索引してみた。
「えっと、なになに・・・・」
『我らの種族は吸血界において、誇り高き血であり、
我らの血は、何者にも屈する事はない。
一気吸血の血を封印するには、我らの血をもって浄化する事にある。』
「と、言うことは始めから、勝負は決まっていたのね・・・」
拍子抜けしてしまったミーナは、ベットに座り込んでしまった。
「でも、良いわ、ダーリンが無事だから・・・」
ミーナは安心した笑みを浮かべていた。

僕は風邪と言うことで、会社を休んでいた。
「そっか、だからミーナは十字架が平気だったんだ」
「そうみたい、少しはマニュアルを読まないとだめね」
「でも、ミーナのお陰で助かったよ、ありがとう」
「だって、ダーリンの為だもの・・・」
「ミーナ・・・・」
「ダーリン・・・」
ミーナの口にゆっくりと近づいていくと
「あっ、その前に・・・お腹が空いちゃって・・・」
ミーナは黒く大きなマントで僕を包むと、
「初めの生活に戻ったから、一咬みね」
ミーナは僕の首筋に口を当ててきた。
・・・こんな生活も悪くはないかな・・・

僕はそう思いながら、吸血を終えたミーナを抱きしめていった・・・・

おわり